
本記事ではこのような疑問を解決できます。
本記事で分かること
- 実際に日本政策金融公庫で創業融資の審査をしていた、融資を落とした理由をすべて公開。
- 落ちる理由を事前に知ることで、創業融資の通過率を極限まで引き上げることができる。
本記事を執筆しているみつきは、日本政策金融公庫の国民生活事業に勤めていた元職員です。
審査担当者として数多くの業種の融資審査を手掛けてきまして、もちろん創業融資の融資審査も数多く担当してきました。

と捉えていましたので、創業予定者をできるだけ後押しするように融資を実行してきましたが、そんな僕でも創業融資を断ったことはあります。
この記事では実際に創業融資の審査をしていた元職員が、融資を断った理由についてご紹介していきます。
※実際には様々な理由が重なり合って融資を断るに至ることがほとんどです。
ポイント
一言でまとめてしまうと準備不足です。
目次
よくある創業融資の落ちる理由
自己資金が少ないorゼロ
日本政策金融公庫は自己資金の有無から創業に対する覚悟や創業までの計画性を判断しています。
自己資金を出さない創業計画を見ると、「本当に事業を軌道に乗せる気があるのか?」と疑われてしまいます。
さらに創業にあたっての資金をほとんど準備していないことから、「今回の創業計画はいきあたりばったりなものなのでは?」と担当者に判断されてしまい、経営者としての資質が不十分だと捉えられかねません。
実際の経験
「臨機応変な対応で事業を拡大していけます!」と申込人から言われたことがありました。
入念な準備を行い様々な状況をあらかじめ想定できるからこそ、臨機応変な対応が可能になると日本政策金融公庫は考えますので、このような受け答えはむしろマイナスになることを知っておきましょう。
創業を検討しているけれども資金が不十分の場合は、焦らず資金の準備から始めることをオススメします。

と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
自己資金は創業計画資金の20%を用意しておけば、ここでマイナス評価されることはないかと思います。
この創業計画資金の20%の根拠は、日本政策金融公庫が毎年公表している新規開業実態調査というレポートに『日本政策金融公庫の創業融資先の自己資金の割合の平均値が約20%』であることが記載されているのです。
このほかにも新規開業実態調査には創業融資を受けるときに知っておくと良いことが満載です。
2019年度新規開業実態調査から分かることを以下の記事でご紹介しています。
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『新規開業実態調査』を活用して創業融資のトレンドを知ろう
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日本政策金融公庫に必ず提出する創業計画書でどこを見れば分かるかと言いますと、『7 必要な資金と調達方法』にある合計金額の20%が準備しておきたい自己資金になります。
創業融資の準備をする際に参考にしてみてください。
見せ金
見せ金とは?
第三者から一時的にお金を借りてさも自分のお金であるかのように金融機関に提示して、審査が終わった後に借りていたお金を返すこと。
- 自己資金がないけど創業融資を受けたい!
- たくさん自己資金があるかのように見せて少しでも多くの融資を受けたい!
という方が、見せ金をしようと考えます。
見せ金は担当者にバレた時点で融資は断られます。
実際の経験
創業融資の審査で「これは見せ金だな…」というケースがいくつかありました。
このとき担当者は申込人に「見せ金してますよね?」など連絡することなく、粛々と社内手続きを進めていきます。
「見せ金がバレたら、そこからBプランで挽回するつもり」と考えていてもそんな機会は与えられずに審査は終わりますので、見せ金は本当にやるだけ無駄ですよ。
斯業経験が少ないorゼロ
斯業経験とは?
これから創業する事業に関連する業種での勤務経験のこと。
例えば、これまでサラリーマンとして何年も務めていた友人から「飲食店を始めたいのでちょっとお金貸してほしい。」と言われたら、あなたはお金を貸しますか?
これだけの情報ならばほとんどの人が「貸したくない…」と思うのではないでしょうか。
貸したくないと思う理由はいくつかあると思いますが、一番初めに感じられるのは「本当に飲食店始めて大丈夫なのか??」だと思います。
この感覚はそのまま日本政策金融公庫の創業融資にも当てはまるのです。
日本政策金融公庫は何でもいいから創業を増やしたいわけではなく、しっかり軌道に乗る事業を一つでも世の中に増やすことをミッションとしています。
斯業経験を積むことで事業を軌道に乗せるために必要なスキル(例:業界知識、ノウハウ、技術スキル、人脈など)が身につくと、日本政策金融公庫は考えているのです。
実際の経験
これから飲食店を開業したいという方の創業融資を担当したのですが、創業計画書を見ると経験はアルバイトしかなかったのです。
アルバイトだけでは経験できるものに制限がありますし、しかもそのアルバイトは2年と「開業して本当に大丈夫だと考えているのか?」ということに直面しました。
さすがに事業を軌道に乗せることができるとは思えず、融資をお断りしました。
噓をつく・話を大げさに盛る
社会人として当然のことですね。
「そんなこと当然でしょ!」と感じている方、申し訳ありません…
「融資面談で良い印象を担当者に与えたい!」という気持ちが強くなりすぎて、つい噓をついたり話を盛ったりしてしまうのだと思います。
本当のことを話してくれない初対面の人を担当者が信用してお金を貸してくれるとは思えないですよね?
真摯な姿勢で融資審査に臨むようにしましょう。
個人信用情報
個人信用情報には、クレジットカードの利用状況や支払い振り、車などのローンの契約状況や支払い振りなどが記載されています。
この個人信用情報から申込人のプライベートの支払い振りが見えるのです。
日本政策金融公庫はプライベートの支払いに遅れがある人は支払いにルーズな人物だと判断し、そんな人物がこれから融資するお金を滞りなく返済できるとは考えにくいのです。
この個人信用情報は事前にご自身で取得することができます。
案外自分が忘れている返済の遅延などがあったりしますので、融資を申込む前に確認することをおすすめします。
1,000円ほどで取得できまして、この費用はケチらないほうが良いです。
実際の経験
『4.噓をつく・話を大げさに盛る』にも関連しますが、「黙っていればバレないだろう…」と考えているのか、僕からそれとなく尋ねても想定とは違う答えが返ってくることがありました。
担当者は事前にあなたの個人信用情報を照会していますので、噓をついてもバレますよ。
公共料金等の支払遅延
『4.噓をつく・話を大げさに盛る』と考え方は同じで、自宅の家賃・光熱費・通信費などの支払い振りをチェックして、毎月支払いが発生するものに対する意識をしっかり持っている人物なのかを判断しています。
これもまた支払いに遅れがあることが分かると、「支払いにだらしない人物」だと判断されます。
日頃の支払いが融資審査に関わってくることをぜひ覚えておきましょう。
実際の経験
光熱費をチェックしているなかで支払いが常に1~2日遅れているというケースがありました。
担当者は延滞がないかを確認しているだけではなくて「ちゃんと期日に支払いがされているのか」もチェックしています。
細かすぎると思うかもしれませんが、初対面の人を信用できるかどうかを判断するにはこれくらいするのは当然なのです。
面談での回答が曖昧
創業融資を受けるタイミングは創業前か創業して間もない時期です。
このころは事業規模も小さく、経理などのバックオフィスも自身でやらなければいけないことから、代表者が事業に関すること全てを把握していて当然だと日本政策金融公庫は考えています。
このため面談で質問に対する回答が曖昧だと、「本当に事業を継続できる人物なのか?」「創業に対する覚悟があるのか?」と経営者としての資質を疑われてしまい、ネガティブ材料として捉えられてしまいます。
堂々とした対応は入念な事前準備があってこそになります。
実際の経験
日本政策金融公庫との面談が金融機関との初めての面談という方が多く、これまでに緊張しすぎて回答が曖昧になる方も中にはいらっしゃいました。
回答が曖昧なのは緊張によるものなのか、準備不足によるものなのか、担当者は数多くの面談経験から分かります。
ただ緊張しすぎるとアピールしたいことを100%伝えきれないこともありますので、やはり事前準備に力を入れることが重要です。
熱意を感じない
『6.面談での回答が曖昧』とも近いですが、面談での受答えだけではなく事前に提出する申込書類からも、申込人の創業に対する想いを汲み取っています。
創業融資の審査を通過するためには熱意だけでは不十分ですが、熱意がなくても融資の通過は難しいのです。
何かしらの想いがあって創業を決意し、その実現のために日本政策金融公庫へ融資の申込をされているはずです。
その想いを担当者に伝えるためにもしっかりと書類に落とし込むようにしましょう。
申込書類の準備ついては以下の記事でご紹介しています。
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【事前準備が命】申込するまでの流れと気をつけたいこと
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実際の経験
提出が必須な書類である創業計画書のどの項目についても1行しか記載がないことがありました。
創業計画書を見て「借りられればラッキーくらいで考えているな?」と感じ、面談でお話を聞いてみると、どうやらインターネット上で「日本政策金融公庫の創業融資は審査がザル」というのを真に受けて申込をしてきたようでした。
事業計画の数字の根拠が弱い
創業計画書の中で一番重要になるのは事業の見通しです。
事業の見通しには、創業当初の売上高・原価・経費・利益はどれくらいで、事業が軌道に乗るころにはどのように拡大するのかを記載することになります。
ここの数字は魅力的なものにしようと思えばいくらでも数字を作ることはできますが、担当者も当然そこに書かれた計画が絵に描いた餅ではないかを検証します。
何を根拠に事業計画を組み立てたのかを担当者は把握したいのですが、その根拠が弱いと組み立てられた事業計画の実現可能性は低く、融資をしてもちゃんと返済してくれない可能性が高いと判断されてしまいます。
計画なので推測の域を出ることはできませんが、どれだけ実現可能性が高められるかが重要になります。
実際の経験
創業計画書の事業の見通しの売上高の根拠が気になったので、面談で申込人に質問したところ、「知り合いの経営者からこれくらいだと教えてもらった。」と回答されたことがありました。
僕はその経営者がどのような人物が当然知りませんし、「この人はすごい経営者で…」と言われても初対面の方からの言葉を信用することは難しいです。
このため事業計画の根拠が弱いと判断しました。
大風呂敷を広げた事業計画書
『4.噓をつく・話を大げさに盛る』でも書きましたが、融資してもらいたいという一心で「自分がこれから創業する事業はとても有望なものだ」と好印象を与えたいという気持ちはとても分かります。
よく分かるのですが、これもまた融資を断られる理由に繋がります。
融資の可否を判断する根幹にあるものは貸したお金をちゃんと返済してくれるのかです。
そして、返済金がどこから来るものかというとこれから始められる事業の利益です。
返済金が生まれる事業が軌道に乗らないならば、融資金を回収することができず日本政策金融公庫は融資したお金分損することになりますので、融資したくないという判断になるのです。
また、万が一大風呂敷を広げた事業計画書で融資が通った場合は次回の追加融資のタイミングで痛い目を見ます。
追加融資の審査の際、前回提出された創業計画書と実績を見比べてどれだけ進捗が進んでいるのかを必ず確認されます。
ここで大風呂敷を広げた事業計画書だと計画と実績に大きな乖離があり、乖離ができた理由について詳しく聞かれます。
そして、今後の見通しについてお話をされても信ぴょう性が薄く、担当者はかなり厳しめにその見通しを分析することになります。
「次こそは!」と言われても、担当者は「本当か?」としか思えません。
事業計画はある程度保守的に作っておくことをおすすめします。
実際の経験
1年後には年商数億円になる事業の見通しを提出され、面談時にどうやってその計画を達成するのかを尋ねたことがありました。
「ここに記載したのは目標でどんな手段を使っても達成します!」と回答されたときは頭の中には何も策がないのだなと判断し、融資をお断りすることにしました。
すでに高額な融資を受けている
創業融資を受けたい方のほとんどは今回が日本政策金融公庫との初めての取引だと思いますので、初めての取引の方はここは関係ありません。
読み飛ばしてもらって大丈夫です。
すでに事業を営んでいて法人を設立して別の事業を始めたいという方は要注意です。
日本政策金融公庫にも融資限度額が設定されており、これは各融資商品で定められています。
注意したいことが実は一つあります。
融資限度額の考え方
- 申込人の個人事業
- 申込人が代表となる法人
- 配偶者の個人事業
- 配偶者が代表となる法人
の合計金額を、日本政策金融公庫は融資限度額と捉えます。
このため、ご自身が代表であるA法人で高額な融資を受けていれば、代表であるB法人を新たに設立して創業融資を申込しても審査すらできないことになるのです。
ご自身だけではなく配偶者にも対象範囲が広がっていることはぜひ注意しておきましょう。
実際の経験
このケースによく引っ掛かるのは不動産賃貸業ですね。
個人事業主として不動産賃貸業を営んでおり、おそらく個人では融資額に限界がきたと感じられて法人を新たに設立したうえで融資の相談を受けることがよくありました。
なかには融資限度額は個人に紐づいていると考えて、配偶者が代表である法人を設立して融資を申込む方もいらっしゃいましたね…
面談で横文字(カタカナ用語)を多用してしまう
飲食業や理美容業などの既存のビジネスモデルであれば、そこまでカタカナ用語が出ることはないでしょう。
この落ちる理由に最も触れやすいのはスタートアップ企業・ベンチャー企業ですね。
特にSaaSを展開する企業やアプリの開発・提供をする企業は横文字のオンパレードでした…
うろ覚えですが…

なお、Churn Rateは△%と設定しています。こちらの資料がそのエビデンスになります。またBurn Rateは・・・


ほんとに何言っているのか分かず、数秒ほど時が止まりました…
面談の目的は、事前に提出された書類で担当者が気になるところや疑問点を解消して融資ができそうかどうかの判断材料を集めることになります。
面談をスムーズに進めるためには、上記のやり取りのようで無駄な往復をすることは避けなければいけません。
面談を経験すると実感すると思いますが、1~1.5時間ほどの面談は案外あっという間です。
「審査担当者ならこれくらいの用語は押さえておけよ…」と思うかもしれませんが、現状がこうなのだからどうしようもありません。
小学生にも分かるように説明すると思って頭のなかを整理しておきましょう。
事業が成り立つとは思えないor担当者の理解を超えている
こちらもどちらかと言うとスタートアップ企業とかが該当するケースが多いかもしれません。
あまりにも革新的な商品やサービスとなると、担当者の理解の範疇を超えてしまうため「これ、本当に上手くいくのか?」とネガティブに捉えがちになります。
そして仮に担当者が理解を示したとしても、融資の可否を決める決裁者(課長や支店長)が理解を示してくれないことには融資を勝ち取ることはできません。
これまでの融資相談のなかで、僕も上手くいく可能性があったものの機会を失くしてしまったケースがあるのかもしれません。
公庫側のレベルが上がることを待つよりも、専門性の高い分野や事例の無い革新的なケースで融資を申込む場合は相手の目線に合わせて説明することを心がけましょう。
また、事業の有望性を示すためにも客観的なデータなどをこちらから提示することも忘れずに。
実際の経験
数多くの融資相談を受けていると、「いろんなビジネスがあるもんだなあ。」と思わされます。
今まで一番「?」だった事業は『占い師専門でスペースを時間貸しする』というものでした。
「ある業種専門にするにしてもなぜ占い師?」「この界隈にそんなに占い師いるの?」など疑問が次から次へと湧いてきたので、単純に知りたいという思いもあり尋ねました。
ただどうやら深くまで検討されていなかったようで、その場で考え直すように伝えました。
融資が落ちる理由を把握して万全の準備を!
ここまで融資に落ちる理由についてご紹介しました。
この記事でも何回かお伝えしていますが、創業融資は事前準備が非常に重要です。
極端に言ってしまうと、事前準備で融資の可否が7~8割決まってきます。
ここで知った創業融資のポイントをしっかり押さえて、創業融資の通過率を最大限まで引き上げて臨みましょう!
動画で理解したい方はこちら